· 

雷雨の萬福寺

数年前、秋の昼下がり、宇治の平等院から三室戸寺を抜け、秋風と小鳥の鳴き声に歩調を合わせながら萬福寺まで歩きました。萬福寺に近づく頃から空模様が怪しくなり、遠く方では雷鳴が聞こえ、小雨が降り始めました。昼なのに暗くなった人影のない道を、なんとか萬福寺の境内に辿りつきました。まだ午後3時なのに参拝の人はだれもいず、僧侶や職員の姿もなく、雨を遁れ、ほっとした気分もあいまって、私は、歴史の刻まれた広大な境内を、人間の営みの儚さを感じながら歩きだしました。その時です、突然、雷光と激し雨が、回廊に避難した私と外界と遮断してしまいました。自然の猛威の前では、僧侶の寺での修行も私の自己満足だけの散歩と思索も儚いものだと感じさせるだけでした。その時以来、私は、雷が好きになりました。人間の愚かさと矮小な存在を雷は妥協なくただあざ笑います。